北アルプス 涸沢の魅力【今泉良山】
- 環境・情報
- 2016/06/11
北アルプス 涸沢の魅力
【今泉良山】
平成12年11月号
「良山」というペンネームを持つ前は、「今泉紅葉」にしようと思っていた。尾崎紅葉にあやかるつもりは全くない。ただ単純に、涸沢の紅葉を見て「こんなに美しい初めてだ」と驚いたから。
あれは、今から5年前、9月最後の週末のことだった。高山の花は美しいとか可憐だとか、言うけれど、あの全山を染め上げる真紅や黄葉に覆われた見事な山容とは較ぶべくもない。テントに荷物を放り込み、身軽になった肩に、愛用の一眼レフだけをぶら下げて、夕方暗くなるまで、写真を撮りまくった。
それ以来、、秋の涸沢に通うようになった。一年の内、9月末から、わすか一週間だけ、しかも、天候がめまぐるしく変化するこのころ頃は、更に日数が限定される。それを逃すと、また、一年またなければいけない。時には、天候に恵まれない年だってある。雨がみぞれに変わり、濡れた体が朝まで冷えたままのこともあった。強風にあおられて、設営途中のテントが飛ばされたこともあった。テント生活が初めての山仲間は「こんなの、もう懲りごりだ」と言って、二度と涸沢へ行きたくないと言う人もいたが、もし、「良山」がサラリーマンでなくなったら、紅葉の時期、一週間まるまるテントにとどまって、一日中、どっぷりとあの山中に浸かっていたい。
桜の散り際を「いさぎよい武士の最期」に例えて、日本の城には、どこでも桜並木が植えられているが、秋の紅葉は激しく燃え尽きる阿修羅の姿のように浮かび上がり、人の心を揺さぶって止まない。静かで柔らかな陽射しを歩く、花の山もいいけれど、激しく燃えて、燃えつきんとする山と対峙するとの、一層人の心を捉えて止まない。
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作成日2002年8月1日